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■ 本州の狩勝 〜 妙法原展望台を目指す
1997年2月2日(日)、磐梯町駅。待合室の時計は12時10分を回っていた。
午前中は厚かった雲も次第に切れてきて、晴れ間が覗いている。
ほぼ無風。
試運転から一週間お付き合いしたD51498も、いよいよ最終日の復路、オーラスだ。
それは会津若松発が13時32分。これを逃せば来年までチャンスはない。
いや来年とて、当てにはならぬ。事実、昨年はあまりの雪の多さに、そして荒天つづきに、断念というより、俯瞰など思いもよらない状態だったのだから。
元をただせば1991年7月、越美北線にC56160を撮りに行ったときだった。
列車を待つ間、それとなく始まる雑談義の片隅に私も加えてもらっていたのだが、そこで見せてもらった写真には、山の上から撮ったのであろう、会津の雪原を右に左に走り回るD51498の姿があった。
「本州の狩勝だ」と思った。
もちろん、私にとって狩勝峠というもの、鉄道雑誌の中でしか知らない。しかし・・・
「今行かなければ後悔する」
そう思った私は磐梯町駅をあとにした。
これから行く先は初めてではないのだが、これまでは誰かしらの車に便乗させてもらい、つまりは何人かで山へ入っていた。しかし今日は一人。冬だから熊の心配はないにせよ、何かあれば命取りだ。谷に落ちても助けてくれる人、助けを呼びにいってくれる人は、いない。
15分ほど歩いた寺院で荷物を下ろす。ここから先はカメラと三脚だけ。時間がない。とてもじゃないが荷物すべてを背負って行ったのでは間に合わないのだ。そして1時間後───
息は大きく弾んでいる。それでも最後の丘を駆け登ると、遠くからかすかに汽笛が聞こえてきた。会津若松発車だ。休む間もなく、私は無心にシャッターを切り始めた。
なんたってここは本州の狩勝。会津若松から翁島まで23.5km、時間にして1時間あまりの大パノラマ。妙法原新第2展望台、ここに独り占めだ。
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